今夜君とダンスを

アイドルはいつだって天才だ

ゲンタという少年に寄せて

 

 

芝居は台詞が全てではない。と思っています。

 

 

 

勿論、登場人物の心情を演者が受け手に伝える手段として台詞や歌というのはとても大きな比重を占めるし、実際言葉やメロディーに乗せることでダイレクトに観客の心を打つ。悲しく消え入りそうな声なのか、嬉しくて飛び跳ねたいような弾む声なのか。これが芝居の醍醐味でもある。それはめちゃくちゃ分かる。


でも、台詞がほとんどない状態で受け手の心を惹きつけるには。登場人物の波のように変化する気持ちをどうやって伝えていくのか。台詞はない。残る手段は、表情だけ。

 

 

例に挙げるとすると昨年カンヌ国際映画祭最高賞パルムドールを受賞した「万引き家族」で大きな注目と評価を集めた安藤サクラさんの涙のシーン。台詞はほとんどなく、途切れ途切れ返事をしようとする声が出るだけ。

あとは全部、表情と涙と受け手を飲み込む空気感。ぺらぺら余計なことを喋るよりも、この演技一つで安藤サクラさん演じる女性の気持ちが手に取るように分かる。台本何十ページ分の台詞よりも、一瞬の表情や目線の外し方、息の仕方、これのほうが情報量が多い。でもこれ、台詞で気持ちを伝えるよりも何百倍も難しい。全然簡単なことではありません。

 

 

 


何を言いたいかというと、松田元太くんの演技についての話をしたくてこのブログを書いてるんですけど。

 

 

 

今回、出演3年目となったEndless SHOCKが現在帝国劇場で上演中となっています。松田元太くん演じる「ゲンタ」、公式から細やかなキャラ設定開示があった訳ではなく本人も特にそれについて言及したりしてなくて、設定に余白が多い状態だったんですが。今回のパンフレットで本人から「ウチが大好きで、ウチは神!みたいに思ってる」という役作りの情報と、「猪突猛進。やんちゃで元気な少年」というはっきり文字になったキャラ設定が。

 


でも、「ゲンタ」のこのキャラを裏付けるような台詞は劇中にほとんどありません。コウイチのライバルにあたるウチの事を尊敬して、大好きで大好きで仕方なくて、神のように慕って。彼自身は元気でやんちゃな少年で、って。ありません。コウイチとリカとウチを主軸に進んでいく物語の中で、ゲンタのエピソードに触れる部分があるわけでもありません。それなのに、「ゲンタ」という少年がEndless SHOCKの世界に全く埋もれていないのは何故か。

 

 


冒頭で書いた「芝居は台詞が全てではない」。
元太くん、表情のお芝居が、息を呑むほど秀逸なんです。

 


YMD後にウチがリカに指輪を渡すシーン、緊張しているウチを遠巻きにニヤニヤ楽しそうに見つめたかと思えば、近寄って肩をほぐしてあげたりする。長年慕い続けてきた相手の恋事情に悪戯に片足を突っ込んでみたかと思えば、本心は成功を願っていて寄り添ったりもする。コロコロと態度が変わっているように見えて、基本的にウチを見つめる目の色に「尊敬」と「好意」が溢れている。

 

だからウチがコウイチと、ニューヨークの街やバックステージで衝突した時、ゲンタは成り行きをそれはそれは不安そうに見つめる。眉をひそめて、両親が夫婦喧嘩してるのを見つめる子どものような顔をして。ゲンタはウチの事が大好きだけど、コウイチのことを嫌いなわけではない(むしろこちらも好きだし尊敬してる)。ウチのことだけ神のように崇めていて、コウイチやカンパニーにそこまで愛がなければ、こんな表情はしない。ゲンタはこのカンパニーにいるウチが好きなんだな。コウイチと切磋琢磨して、強気で弱気で、でもステージに立つと輝くウチのことを尊敬してるんだな。

 

 

大好きな仲間同士の衝突。その片方にあたるウチを神だと思っているんだと元太くんは言ったけど、ベースにあるカンパニーへの愛が、その設定を際立たせている。ウチの事は好きだけど、カンパニーと衝突して欲しいわけじゃない。ウチの事は尊敬してるけど、だからってコウイチと喧嘩別れして欲しい訳じゃない。言い合いの間、ずっと泣きそうな顔をして下を向いている。ウチがカンパニーから離れかけても、それでもウチの事は嫌いになれない。根底にある尊敬の感情をゲンタは捨てない。

 

ゲンタは、優しい子だ。

 

 

 

場面は流れ、病院で息を引き取ったはずのコウイチが現れ、リカがすべてを話すシーン。
刀を本物にすり替えたのは俺だよ、とウチが口にしたのを聞いて静止するゲンタ。私は、これ程までに「呆然」という表情の演技が上手い人を他に知りません。後頭部を強く殴られたような衝撃と、ウチのやった事を信じられない、信じたくない、そんなはずないって、自分に言い聞かせるような顔をするゲンタ。

 

舞台上では数秒程度しか時間が流れていないけど、ゲンタはその間に恐らく色んな事を考えている。今聞いたこと、これまでのこと、一生懸命理解しようとしている。でもその目に、ウチを非難するような色は一切ありません。この事実を聞いても尚、ゲンタは大好きなウチの事を嫌いになりたくはなかった。コウイチと衝突を繰り返して、同じく尊敬するコウイチに対して本心から思ってもいない罵声を浴びせている時も、自分の殻に閉じこもるように、ゲンタは床をじっと見つめて、時々左手を固く握り締めていました。

 


ゲンタは、ウチのことを好きでいたいんだ。尊敬を尊敬のままで宝物みたいに抱えておきたい。それをなかったことにしないで欲しい。コウイチに本当のことを話すウチを、ゲンタは目に涙をいっぱいに溜めて見つめる。自分のやったことを全て話して、罪の意識に苛まれているウチを、自分まで同じイタズラをして怒られて泣いている子どものような顔で、見るんです。

 

 

ライトは当たっていないけど、真っ赤な目をして、両方の目に涙をいっぱいに溜めて、ぽろぽろと溢れる涙を握った拳で拭って。

ああ、今、ゲンタ、つらいなあ…って、こっちまで感情を大きく揺さぶられて、気づいたらボロボロ泣いていました。

 

 

 

リカがコウイチを刺した時もそうです。

それまで息を飲んで事の行く末を見守っていたゲンタの呼吸回数が、刺した瞬間から明らかに増えます。衝撃的なものをみて心拍が増えない人間はいません。心拍が増えると、心臓に血流を送り込もうとして自然と呼吸の回数が増えます。あってはならない展開に驚いて固まる、という演技もあるとは思いますが、元太くんはそういう、芝居とリアルの狭間の表現を、とてもうまくやってしまう人です。

 

 


目線の動き、息の仕方、客席を飲み込む空気感。

どれも容易にできるものではありません。
台詞がない状態で、元太くんは膨大な情報量を、この表現だけで受け手に投げつけます。

贔屓目でしょうか。それでも、圧巻です。

 

彼がやっていることを「お芝居」という3文字に片付けてしまうには、あまりに勿体ない気がしています。お芝居ではありません。元太くんは演じてるだなんて意識、もしかしたら1ミリもないのかもしれません。

 

 

 

SHOCKで彼がやっているのは、「ゲンタの芝居」ではなく「ゲンタの人生」です。

 

 

 


ゲンタの人生はストーリー展開に直接関係ない事かもしれません。ゲンタがウチを好きでも好きじゃなくても、Endless SHOCKという主軸はブレないのかもしれません。

それでも、元太くんが命を削って生きているゲンタという人の人生を目にして、これが「特に結末に関係のないこと」だとは、とても言えません。それ程、元太くんのやっていることには、受け手を飲み込む力があると思っています。

 

 

元太くん、お芝居をすることが好きだし、大河ドラマへの出演を目標にする向上心の塊だから、私はもっともっと彼の表現力が多くの人の目に触れますようにと、願ってやみません。

 

 


少なくとも、もしこのブログを読んで、ゲンタという少年に目を向けてみようという方がいらっしゃったら、元太くんの表現力の渦に、巻き込まれて欲しいなと思います。

 

 

あと2ヶ月、元太くんが「ゲンタ」を生きる日々に最大限の愛を込めて。

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