今夜君とダンスを

アイドルはいつだって天才だ

「The Show」に込められたTravis Japanの未来を見た

白いライトで模られたグループ名のセットをバックに背負い、デニム生地に赤色とファーが映える新しい衣装を身に纏って、心にグサグサ刺さる歌詞を歌う。キラキラとステージの上へ舞い落ちる金色の雨の中、7人の強い眼差しを目の当たりにして、「なんて綺麗なんだろう」と思った。この感情を完全に形容する言葉が見つからない。瞬きなんて、勿体なくて出来なかった。一瞬たりともこの時間を見逃したくないと強く思った。天に向かって拳を突き上げて、曲は終わりへと向かい、グループ名の形に切り抜かれた緞帳がゆっくりと降りていく。7人が緞帳に覆われて見えなくなっていく中、宮近くんの「We're Travis Japan. Thank you.」という言葉が会場内を木霊して、肌が聳つのが分かった。グループ名に切り抜かれた赤い緞帳の向こう側に見えるのは、ただのステージの向こう側の空間ではなくて、Travis Japanの残した熱気のようなものが確かに漂っていた。これは精神の話じゃなく、物理の話だ。


あまりにも美しくてスローモーションにすら見えたその光景に、私はいつか来たるべき未来を見たのかもしれないとすら思った。贔屓目ゆえの過言でもない。この文章は、Travis Japanのオリジナル最新曲「The Show」と対峙した人間の、どこかに書き残しておきたかった感想文です。

 

1.曲調の凄さ

曲調は、かなり時代を遡ったアメリカ音楽のような、豪快なビックバンドサウンドが印象的な始まり。アタックが強くて、4拍子「1・2・3・4」にした時、1と3の前拍を強調する事から全体的に縦ノリ(身体を垂直に動かす)したくなる曲と言える。まず面白いと思ったのがテンポの緩急。ビックバンドの大胆でゆったりしたテンポのイントロから始まり、宮近くんの「I'm back here…」を皮切りにテンポが早まり肩を上下させる振り付けが加わる。そしてまた少しの間テンポはダウンからのアップを経て、Aメロは再びテンポダウンする形でしめちゃんの歌い出しに突入する。この上がり下がりする波のような、テンポの緩急の付け方がまず凄い。

 
イントロからボルテージをどんどん上げて勢いのまま歌詞に突入する事も出来るけど、テンポの緩急がある事で、心をぐーっと引き寄せられたかと思えばパッと離され、またぐーっと引き寄せられるという、ある種駆け引きのような仕掛けを感じることが出来る。メリハリのついたイントロ構成に加えTravis Japanのダンスが乗っかる事で、テンポダウンした箇所も決して間延びしたようには感じない。むしろ豪快な曲調による疾走感とバンドサウンドの高揚感が相まって、テンポの上がり下がりが受け手側の違和感として働いていない所がまた凄い。

 
初めて聴いた時、「アルバムのリード曲にありそう」だと思った。アルバムのリード曲にありそう、という事は、もしこの「The Show」が含まれたアルバムが発売されるとしたら、この曲が宣伝のためにテレビやラジオでどんどん流されるし、アルバムの顔となる曲になる。そういう事です。伝わらないかもしれないし、伝わっている気はあんまりしていませんが、それくらい凄い曲だという事です。初めて聴いたのに、「この曲がTravis Japanの表現における世界観の一端を担っている」と思えたという事です。耳にしたのは初めてなのに、目にするのは初めてなのに、「これは間違いなくTravis Japanの歌だ」と断言できてしまう程に。

 

 

2.歌詞の凄さ(歌い方等含む)

曲だけじゃなく歌詞も鮮烈で、前衛的で、挑発的。

歌詞全編について内容を掘り下げてみたい。歌詞の内容だけに触れるつもりが、その他の事にも触れてしまっているので内容にまとまりがない。すみません。行ってみよう。

  

I'm back here…

 
この宮近くんの一言を皮切りに曲が動き出す感じが、もう文句なしの最高ポイント。この歌詞を、この言葉を宮近くんにしようと決めてくれた人に金一封を渡したい。「I'm back here.」直訳すると「ここへ戻ってきたよ」。どこに?って話だけど、そしてその答えはAメロのしめちゃん、松倉くんのパートへ続く。

 


It's time 始めようか 随分イイ子で So far

待ってたようだね

Crank up 長い時を待ち侘びてたのは

君の方だけじゃないさ

 
世界中に感染が広まり、2020年の2〜3月頃から沢山の舞台、コンサート、つまりTravis Japanが立つはずだったステージも無くなってしまった。そこから1年間、無観客の配信コンサートや、有観客と言えど地方公演が全公演中止となり、都内公演も座席が絞られてしまった舞台。Travis Japanが本来思い描いていた完璧な形での公演というのは、叶わぬまま。そしてやっと有観客で幕を開けたこの全国ツアー。長い間待っててくれたね、と。この時を待ち続けたのはファンだけじゃなく、Travis Japan自身も同じだと。もう分かりますよね、冒頭の直訳「ここへ戻ってきたよ」は、この1年間Travis Japanが待ち続けた、有観客でのステージである事。

それを宮近くんが呟く訳だけど、その言い方は客席に対する「I'm back here!」のような嬉しさ爆発という感じではなくて、自分たちが挑み続ける未来を見据えて、今まで蓄えてきたものをちらつかせながら発する「I'm back here…」だと。やっとステージに戻ってきた。もうここでは何の遠慮もしない。準備はいいですか?と言わんばかりの、これ以上ない挑発的な格好良さが詰まった「I'm back here…」だと。このパートを宮近くんに言わせようと決めた人に、金一封を渡したい気持ちが1ミリでも伝わったら嬉しい。

 


身体中満たす Adrenaline

I really like, I really like the feeling

スピード増す鼓動はGroovin'

何処までだって行けるよ

 
ここののえげんの掛け合いもまた良い。そして二人とも英単語の発音が良い。如恵留くんは元々英語ができるし、元太くんはとにかく耳が良いから発音系のコピー能力が半端ではない。

ずっと立ちたかったお客さんのいるステージの上で、身体中にアドレナリンが駆け巡っていくのが分かる。鼓動はどんどん速さを増して、このままどこまででも行けてしまいそうな高揚感に包まれる。ステージに立っている側の心理を一つ一つ丁寧に、でもその体温は失わずに歌詞に綺麗に落とし込まれていて、客席にまでその熱量が寸分狂わず伝わって来る。

 


戻らない時間ならいっそ今夜僕と

全てを置いて行こう Come on, come on

派手に行こうぜ


ステージに立ってしまったら時間は進むばかりで戻す事は出来ない。ならば、後ろ向きな気持ちや躊躇いはここに置いて、今を楽しもうと受け手側の手を取って走り出すような疾走感のある歌詞がポイント。あと、ここのパート(1番うみちゃん「いっそ今夜僕と」2番しめちゃん「奇跡を噛み締めて」)の音程がものすごく洒落ていて好き。(別ツイートにて動画と共に音程のポイントを呟いてますのでご参照下さい。)

 


Wow-oh-oh-oh…

さあおいで光の渦へと

Wow-oh-oh-oh…

極彩色の世界へと

Give your give yourself,

Give your give yourself away

戸惑いなんて今は脱ぎ捨てて

Wow-oh-oh-oh…

君の全てを曝してごらん

 
ステージの上に散らばる煌めきって、きっと客席側からは言葉に具現化し切れるものではないと思っている。「眩しい」とか「キラキラしている」なんて安い言葉に収まる事はない。その場所に立てる人間はほんの一握りで、そこに辿り着くまでには想像もできない程の葛藤や後悔やドラマがあって、血の滲むような思いや努力も涙も汗も足元に死ぬほど転がっている。それでも、そんな彼らがそのステージ上を「光の渦」と、「極彩色の世界」と歌う。目まぐるしく渦巻く世界である事に変わりはないであろうに、それを「光」であると言う。色んな思い(色)を連れてこのステージまで来た人には、この場所はたった1色の色では表現出来ないほどの思いがひしめき合う場所なのだろう。

彼らがこれから進む道がどんなものであろうか分からず、自分を解放し切れていない(飛び込んでいいか分からない)曲の受け手に対して「give yourself away」=「自分自身を解放して」「脱ぎ捨てて」と促し「君の全てを曝してごらん」と締め括る。アイドルとファン。アイドルをコンテンツとした時の商業的な話の上では消費される側と消費する側なのだが、そんな表面的な話は一旦無しにして、「君の本当の気持ちを見せてごらん」と理屈じゃなく本能に語りかけられている歌詞だと感じる。


2番以降の歌詞も、

 


Wow-oh-oh-oh…

さあ踊れ二度はない夜を

Wow-oh-oh-oh…

誰の邪魔もないこの時を

Give your give yourself,

Give your give yourself away

恥じらいなんてフロアに散らかせ

Wow-oh-oh-oh…

僕の全てで満たしてあげる

 

そうさOne for your loving

And two for the show

余計なものなどもう要らない

夢見てるだけ? いや嘘でしょう

出会う前にはもう帰れない

 
すみません、歌詞の良さのあまり涙で滲んで前が見えません。コンサートも舞台も、どの世界のどんなステージも、同じものは二度と作れない。「もう一度」はどうしたって通用しないから、幕が上がったならもう恥じらいを捨てて、この時間に身を任せて飛び込んでみて、というこの上なく背中を押してくれる言葉。

そしてこれ。「One for your loving And two for the show」。初めてこの歌詞を見た時、ハァ〜〜〜って深い溜息をついた。「The Show」というタイトルの楽曲にこの歌詞がある矛盾。こんな素敵な矛盾、今まで見た事がない。直訳は「第一にあなたの愛に応えるため、次にショーのため」。解釈としては「このステージは、このパフォーマンスは、今この時間は、何よりもまずファンの愛に応えるために存在している。その次に、ショーのため。」だと思っているのですが。その後に続く「余計なものなどもう要らない」もまた、ファンの愛とショー以外は要らないという歌詞。

この「The Show」というタイトルをつけておきながら、歌詞にこの英文を入れて歌ってしまうTravis Japan、とても好きだし、Travis Japanのファンは愛されているなあと目の奥が熱くなった。

 

 

3.演出の凄さ

1と2で書いたように「The Show」は単体でも十分に魅力的だけれど、この曲の良さに拍車をかけたのは、今回の全国ツアー「IMAGE NATION」の演出なんだろうと思う。(以下は私個人の解釈でしかないので、さらっと読み流して頂いて大丈夫です。)

 
今回のツアーコンセプトは「7つの王国」。Moon、Shine、Passion、Smile、Innocent、Nature、Loveの7つの国の国王がオープニングで円形に並んだ机と椅子に座って首脳会談を行っている。オープニング曲の曲調の激しさもあって、緊迫した雰囲気だったり、机を叩いたりする振り付けがあって「国同士の方向性が異なっているせいで揉めている?」というような印象を抱いていた。立ち位置は机の外側(円の外側)に居る事が多い。

 

エンディングは今回記事にしている「The Show」。オープニングと比較してセットの位置は全く同じ。7つの机が円形に並べられていて首脳会談が行えそうな位置取り。ただ、オープニングとエンディングが大きく異なる点はTravis Japanの立ち位置。最初は机の外側だった7人の立ち位置が、エンディングの最後で全員が机の内側に飛び込む場面がある。

 

最初は国の方向性の違いを巡って対立していた7つの国が、それぞれの国のパフォーマンスを通して良さを共有するうちに、個性をぶつけ合うのではなくて、それぞれの国の共通点を見出す事にシフトチェンジした。それぞれの国が見せたいものはあるけれど、その共通点こそが「ショー(The Show)」だった、という解釈。だからこそ、国同士の対立が不要になった今、机(ここで言う国境のような解釈)の外側に居る必要はなく、机の内側に飛び込んで行けたのでは、と思っている。この演出がとても好きで、だからこそ今回のツアーに必要な新曲だったし、これからのTravis Japanのキーとなる曲になるんだろうなと思えた。

 

 

その曲のタイトルは「The Show」。
今一度「show」という単語が持つ意味を調べてみると、よく使われる「ショー(興行物)」、「〜を見せる」、「〜表現する」以外にも「好機」や「〜を証明する」という意味も含まれるらしい。表面的には、Travis Japanの新たな一面や魅せ方を「見せる」事や「ショー」そのものを表した曲なのかもしれない。けど、その奥底にはこの曲がTravis Japanに訪れた事が一つの転機となればいいという願いも込められているように思えてならない。今まで表現した事のない、新鮮な種類の楽曲。なのに背伸びは一切必要ない、等身大の彼らを歌っている。「今までのTravis Japanにない曲」は、彼らの新たな飛び道具なんてものじゃなく、1ミリの違和感もなく「今のTravis Japan」というパズルにぴったりと嵌るピースになっている。

この曲は間違いなくTravis Japanの好機だ。今のTravis Japanの証明だ。「The Show」という、彼らにとっての多くの意味を含んだ一曲が、これからのTravis Japanを更なる高みへ連れて行ってくれる。そう確信した。

 
「The Show」はもしかしたら、この先のTravis Japanのエンタメを切り開く鍵となるのかもしれない。その鍵を握ったTravis Japan自身が、これからステージの上でどんな光の渦を起こし、極彩色の世界を見せてくれるのか。

 
金色の四角い紙吹雪が空中を舞いながら、ライトに照らされてキラキラと反射する真ん中で、Travis Japanが嬉しそうに、誇らしげに、眩しそうに、この曲を歌う光景を、今でも鮮明に思い出す。
この先もきっと、忘れる事はないと思う。

 


「The Show」を見た者は、Travis Japanと出会う前にはもう帰れない。

7人のショーは、まだ幕を開けたばかりだと、この曲がそう告げている。