今夜君とダンスを

アイドルはいつだって天才だ

その未来の証人になりたい

急に告知された21時からのインスタライブを、緊張しながら待っていた。今回は珍しくアーカイブを残さないのだと言う。いつも見られない人を気遣って必ずアーカイブを残してくれるグループが、だ。全員がジャニーズwebで「インスタライブを見て」と更新している。こんな事は滅多とない。何だか、少しざわざわした気持ちを抱いていた。知っている。この気持ちを私は経験した事がある。「大切なお知らせ」と告げられた時の、崖の前に立たされた様な、見えない底を覗き込んだ様な不安に似ている。大切なお知らせは、良くも悪くも、時に未来を大きく変えてしまう。

 

21時になった。インスタライブが始まり、7人の楽しそうな表情に少しホッとするものの、ハッシュタグの文言に重大発表が含まれている事に再び背筋が凍ったような気がした。宮近くんがわざわざ間違えない様に書いてきたという紙をポケットから取り出す。この時点で、全国ツアーとか、イベントをやりますとか、そういった類の事ではないことが分かった。ああ違う、何だかもっと、とてつもなく大きな事が起こる。こういう時の直感というのは、悲しいほどに当たる事が多い。

内容はネットニュースにも挙がっている通りである。歌、ダンス、表現力を含むパフォーマンスを磨くため、全員でアメリカ・ロサンゼルスへの無期限の渡米。1つの家を借りて、全員でそこに住むのだと言う。コンテストにも1つ出場する事が決まっている。宮近くんがどんどん紙を見て説明していくけれど、何一つ頭に入って来ない。メンバーがわいわいとこういう事がしたい、と未来の話しているのを目で追い、耳で聞き、情報を理解しようとしているけれど、何一つ分からなかった。


本当に本当に申し訳ないのだけれど、第一の感想は「それは今本当に必要な事だったのか」だった。正直、素人目に見たってTravis Japanのダンスは既に申し分ないほど凄い。始まって半年が経っている+81 DANCE STUDIOでも、そのスキルは十分に観る者を魅了している。体格差がバラバラでも、動きに個性があっても、「この人たちのダンスは揃っている」と思わせてしまうパフォーマンス力。様々な舞台やコンサートで数えきれない場数を踏んだ人達の、圧倒的な表現力は何者にも代えられない凄さを誇ると。デビュー組、ジャニーズJr.を織り交ぜてもその実力はどのグループにも引けを取らないと思っている。

それなのに、なんで今なんだろう。なんでアメリカなんだろう。それって日本に居ては出来ないのだろうか。それって本当に今Travis Japanがやらなければいけない事なんだろうか。それって、それって。Travis Japanとしての未来を保証してくれる選択なんだろうか。

 


Travis Japanが一人ずつコメントを長々と話してくれて、みんなも寂しいと思うけど、と、置いてきぼりにしないよと、待っててねと伝えてくれるけれど、違う。違うんだ。そうじゃない。寂しいとか、会えないとか、そんな単純な事で頭が真っ白になってるんじゃないんだ。全国ツアーを去年完走し、秋の舞台は3年目を迎え定着化もした。メンバーが一人ずつ個人仕事を獲得し、映画主演やドラマ出演の話、雑誌の掲載も途絶えない。今まで積み上げてきたそれらを、全て一旦打ち切りにするという事だ。国内での仕事を止めて、ほとんどの人の目に触れない海外に行くという事が、どういう事なのか。それらを一旦と言えど打ち切る事が、この流行り廃りの激しい芸能界で今後のTravis Japanにどういう影響をもたらすのか。私はそれが怖かった。Travis Japanが積み上げてきた頑張りや、培ってきたものが、無かったことになってしまうんじゃないのか。いつまた会えるか?の答えが欲しい訳じゃない。Travis Japanは、ちゃんとTravis Japanのままで居てくれるかの確証が欲しかった。

 


会えない事への悲嘆じゃない。私が一番に感じたのは、Travis Japanがなくなってしまうかもしれない不安だった。

だから手放しには喜べなかった。彼らの挑戦はすごいと思う。生半可な覚悟で出来ることじゃない。今の環境じゃない新たな場所で、また新たなものを積み上げようとするのは、とてつもない勇気と根気が要る。私には到底出来る事ではない。でも、すぐに「頑張ってね」「待ってるよ」「いってらっしゃい」の言葉が喉元までは上がってこないのだ。彼らの背中を押した方が良いのは分かる。物分かりの良い、模範的なファンだろう。Travis Japanから見えるように設定されているインスタライブのコメントがすぐに肯定的な意見で埋め尽くされて、否定的な意見が書かれる場所ではない事も理解しているのに、ああもう取り残されていると感じてしまった。すごい、もう皆こんな大きな決意を理解して、頑張ってと言えてしまうのか。私の心配は杞憂なのだろうか。私の不安は、抱えるべきではない、彼らの決意に水を差す存在なのだろうか。

 

 

結局涙も出ないままインスタライブが終わり、Travis Japanの言葉のフォローも右から左へと駆け抜けていき、何だか虚しさみたいな感情が大きな靄のように残っていた。いつも仲良くしている友人から連絡が来る。一言、二言やり取りをして、ふと直接話したくなった。「電話いいですか」と確認を取って、通話を始める。耳に友人の言葉ではなく、泣きじゃくる声が聞こえてきた瞬間、私の中の何かがぷつんと音を立てて切れて、堰を切ったように涙が溢れた。嫌だ。行かないで欲しい。

寂しいんじゃないんだ。Travis Japanをすぐ見られない環境を寂しいと言ってる訳じゃないんだ。不安で仕方がない。ちゃんと彼らは帰ってきてくれるのか。無期限という見通しの全くたっていない渡米、彼らが積み上げてきた仕事の中断、ファンだってある程度は離れてしまうだろう。せっかく今まで作ってきた環境を、Travis Japanが失ってしまうんじゃないか。そしたら、もう2度と、このTravis Japanを見る事は叶わなくなってしまう。そんな事絶対無いよという保証が何処にもない。それが怖くてたまらなくて、涙が止まらなかった。

 

 

この決断は、Travis Japanの努力を、無に返す事にはならないのか。

 

 

 

 

Travis Japanの言葉はいつだって前向きで、大丈夫だよとこちら側の背中を優しく叩いてくれる。「約束する」「帰ってくることを誓う」と。それは何の法的効力も持たない口約束なんだけど、もうこれに縋るしか道はなかった。泣いても足掻いても、例え文句を言っても、この決断は覆らない。だってもうTravis Japanは既にアメリカ行きのチケットを確保していて、今後について話を進めている。私達に残された道は、待つ事だけだ。待つことしか選択肢は残されていないから、Travis Japanを想いながら彼らの帰りを待つ。それしか出来る事はない。

 


信じられるか信じられないかじゃなく、今例え確証がなくても手の中に収めていられるのは、Travis Japanの言葉だけだとも思う。大きな大きな決意だね。きっと沢山話し合って決めたんでしょう。二つ返事が出来る事ではない。この決断に至るまでに、衝突や葛藤もあったかもしれない。

彼ら自身が、この渡米期間に失う代償を考えていない訳が無い。それでもスキルアップをしたいと、この決断に至ったのだから、もう背中を押すしかない。私だってTravis Japanの夢や決意を蔑ろにしたくはない。

 

 

 


Travis Japanへ。

 

 

沢山考えて、言葉を選んで伝えてくれてありがとう。日本を出てスキルを磨くという決断はとても大きなもので、それを全員で成し遂げる事は容易では無いけれど、敢えてその道を選んだ勇気を、凄いなと純粋に思います。

発表するまで、色んなことを考えたかもしれませんね。緊張した面持ちで口を開く瞬間まで、この決断が受け入れられるのか否か、思い返せばそんな表情だったなと思います。元気に笑ってはいるけれど、今まで応援してくれたファンが離れてしまうかもしれない事や、自身を取り巻く環境が変わる事に、不安がないはずはありません。


私たちが不安に思うのと同時に、Travis Japan自身も不安なんだろうなと思うと、この気持ちはまあお揃いみたいなもので、持っていても良いのかなと思えました。

納得しているかと言われると、多分時間はかかってしまうけど、Travis Japanが「夢のHollywood」を夢で終わらせたくないと言ってくれるから、私はその夢が現実になる瞬間の証人で居たい。いつになってももう待つことしかできないのなら、いつまでだって待ちます。


約束は簡単に千切れます。これはファンとの契約ではないので。それでも、もう今できる事は、Travis Japanの、7人の人生を賭けた大きな賭けに乗っかる事だけです。だから、乗っからせて下さい。Travis Japanの今回の選択に、手持ちを全ベットします。この賭けに勝って、Travis Japanとして帰ってきて下さい。

 

 

しがない1人のファンより。

 

 

 

 

私はTravis Japanに、きちんと報われて欲しい。

今までの努力も、涙も、ステージへの想いも、一人一人の前向きな変化も。無かったことにしたくないし、それはあってはならない。

彼らの想いがあるべきゴールへと向かう未来が、どうか、正しく存在しますようにと願います。

 

 

 

2022.3.4