今夜君とダンスを

アイドルはいつだって天才だ

Travis Japanの歌う恋愛曲の時系列解釈を考える

「愛のかたまり」と「so Crazy」。

今日はTravis Japanがカバーで歌っているこの2曲の話をしに来ました。どちらもとても好きなんですが、Travis Japanがこの2曲をカバーする時、一言では言い表せない違いがある気がしてずっと言葉にできずにいました。どちらが良いとかそういう事ではなく、この二つには相反する何かがある…。先月と本日のザ少年倶楽部で放送されたものを元に、考えていきます。(全て超個人的解釈ですので、その点ご理解ください。)

 

 

1.愛のかたまり


キンキ兄さんのお二人が歌う愛のかたまりには「幸せすぎて今この幸せを失う事が怖い」「現在進行形の愛へ対する真っ直ぐな気持ち」というイメージを強く持っていたんですが、Travis Japanが歌う愛のかたまりは、どこか今この地点よりも過去のお話を歌っているように聞こえます。カバー版の愛のかたまりの時系列が『現在ではない』と仮定して以下の話をしていきます。

静かなピアノイントロで始まるMアルバムのバージョン。どことなく物悲しい感じ。静止していた状態から全員がゆっくり同じタイミングでスッと動き始めるこの感じ、何かに似ている。なんだろうな〜としばらく考えていたんですが、一番しっくり来たのが「ゼンマイ式のオルゴール人形」でした。ゼンマイを意図的に巻かなければオルゴール人形はずっと止まったままで動き出す事もないんですが、ネジが巻かれて曲が始まったことによって人形も動き出した。今まで閉じられていたオルゴールの箱をそっと開けて、ゼンマイを巻き、思い出を再生させている。その後7人がそれぞれ別々の動きで舞い、同じ方向に向かってゆっくり歩き出す=オルゴールが回り始めた事で、記憶の中にあった小さな断片がぽろぽろと幾つも空中に放り投げ出され(7人バラバラの動き)、一つ一つ記憶を拾い集めるようにして(同じ方向へ進んだ後の空を掴む動き)、また思い出の輪廻を辿り始める(円形に戻る)。この円形での場面も順番に手を開く動きで、時計の針が動き始めたようにも映る。イントロはそんな風に見えるのです。

 
歌詞は2番。「どんなにケンカをしても価値観のずれが生じても」「1秒で笑顔つくれる武器がある あたしたちには」。歌詞の内容や「〜がある」という文末だけ見ているとやっぱり現在進行形の恋愛なのかな?と思うんですが、どこか歌い方が切なくて「現在ではない何か」を想像させる儚さがあります。如恵留くんの「変わっていくあなたの姿 どんな形よりも愛しい」、しずんちゅの「この冬も越えて もっと素敵になってね」の部分。ここ。隣にいる人にではなくて、どこか既に遠い所にいる人への手紙や叫びのような歌い方。二人で過ごす未来への希望というより、過ぎ去った事を知っているのにそこにもたれ掛かってしまう執着、一緒に歩めない結末を知っているからこそ、自分の知らない所でいつか変わっていくであろう人の姿が悲しくて愛しくて仕方ない、という複雑な心境にも取れる。

そしてそこからの力強いステップが、終わってしまった事への後悔や地団駄のようなものを連想させる。続くサビの「子どもみたいにあまえる顔も 急に男らしくなる顔も」のちゃかちゃん、「あたしにはすべてが宝物 幾度となく見させて」のしめちゃんの歌声は湿度が高めで、切なさ度合いのメーターが振り切れている。終わった恋愛のページを一枚一枚めくり、幾度となく記憶を脳裏に焼き付けることで隣に居ない今の寂しさを埋め合わせていたとしたら。

「思いきり抱きしめられると心 あなたでよかったと歌うの」「X'masなんていらないくらい日々が愛のかたまり」。今年のクリスマスを一緒に過ごす事はないのに、抱きしめられた時の体温やクリスマスなんて要らないと思った時の感情がずっと消えていないとしたら。Travis Japanが歌う、この「最後の人に出逢えたよね」は本家とは全く違う顔を見せてくるのでは。


このパートの直後に映る、センターのちゃかちゃんを見せるための如恵留くんから始まる両端に寄る動き。その時の右側ののえげん(うみちゃんも若干)の動きが何かを掴み損ねたような動きにも見えてならない。最後のちゃかちゃんも何かを掴んで自分の方へ引き寄せる動作(しかもその後に手の中から消えてしまっている?)をしていて、掴もうとしていたものがもしも隣にいた時の記憶だったなら、もうすでにこの「愛のかたまり」の二人は別れていて、未だに別れを受け入れられず思い出を引き寄せて離さないから、幸せだった時の幻聴が見えているのかなと。それがあまりにも鮮明な記憶だから、歌詞だけ見ると過去のことを歌っているように聞こえず、現在進行形で育まれている恋愛に錯覚するのではないかと。

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「過去から現在」の感情に縋りながら、幻想によって「未来」への気持ちを捨てられない「現在」が、Travis Japanが歌う愛のかたまりの時系列かなという結論に至りました。時系列の矢印としては過去に記憶が戻ることもありつつ、幻想を抱いてでも気持ちが未来へ向かっているので両方に伸ばしました。続いてso Crazy。

 

 

2.so Crazy

 
ソークレの解釈は歌詞そのままで、過去の恋愛を忘れられずそこに執着することを止められない男性の歌。歌詞冒頭の文末が「〜始まってた」「〜吸い込まれてた」「〜止まってた」と過去形になっている事と、心情を表す部分の文末が「〜止められない」「〜考えるほど苦しい」「〜染められてく」「〜君を探してる」のように全て現在形になっている事で、出来事は過去の事として終わっているけど、その気持ちは現在進行形で進み続けているという事が分かります。もう一つ、カバーを語るに欠かせないのは本家に無いしめちゃん作詞のラップですよね。過去方向へ向かってズブズブな事が伝わるので最高なのですが、ここに愛のかたまりとは大きな違いが含まれています。

 
君のくれた ありふれた

この気持ち止まらずに今も

愛し続けていた 君の声

うまくいかない いっそCrazy

君の体温感じる時はすぐ

夢ならば永遠にそのままでいい

離さない逃がさない

全て終わり迎えたい

追いかけてる 君の全て

愛してるよ Crazy Love

 
まず「君のくれた」「愛し続けていた」と「今も」で過去の話である事がはっきりします。ただ、「君の体温を」の文末が「感じた」ではなく「感じる」になっています。何故今いない人の体温を現在形で感じる事ができるのか?という問いに「夢ならば永遠にそのままでいい」という答え合わせが来るんですよね。ここが凄い。そして、彼女の記憶や体温を「離さない逃がさない」と言った直後の「全て終わり迎えたい」。ここが愛のかたまりとの一番大きな違いで、ソークレは過去を引きずりながらも、そこへの執着を断ち切りたいと思っている。愛のかたまりには存在しない感情です。それでも好きという気持ちは止められないから、これが狂った事だと分かっていても面影を探し続けている、そんな心情がしめちゃんのラップから読み取れて深い。

 
Travis Japan全員、恋愛への重たい感情を歌とダンスで表現する選手権でそれぞれ別部門1位を取りそうだなと勝手に思っています。表現力の種類がそれぞれ違うと言いますか。

エンターの配信であったように、間奏で片腕を引っ張られる動きだったり、首を絞められていたり、力なく座り込んだり。わざと喉を絞った歌い方をしたり、ぽつぽつと語るような歌い方だったり。過去と対峙する気持ちの表現方法が様々で秀逸です。過去の記憶に振り回されてもなお、街の中で彼女の姿を探し続けてしまい、そこから脱却する事ができない辛さのようなものが手に取るように分かります。特にちゃかちゃんの「苦しいくらい愛してみたい」「もう二度と離さない」と松倉くんの「今すぐ抱きしめたい」「永遠を探してみたい」「僕はそれを信じてみたい」の表現力乱れ打ち。ちゃかちゃんの辛い気持ちを前面に出したパートの後に来る松倉くんの、気持ちを心の一番奥に押し込めたような立ち振る舞い。大きな感情の威力の後に訪れる、凪のように静かなのに、たった一雫落ちた波紋がいつまでも外側へ広がっていくかのような余韻。振り幅の追撃が凄い。

ソークレの時系列はこのような感じ。

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過去に引っ張られながらも、そこから脱却したいという「全て終わり迎えたい」思いも持ち合わせている。ただ、過去へ引っ張られる力が強すぎるあまり現在より向こう側へは進めていません。Travis Japanがソークレを歌う時に発生する、「この恋愛が終わった事への理解」は愛のかたまりにはない、対極にある感情なんじゃないかと思います。

 

 

3.まとめ

 
二つを合わせるとこうです。どちらも過去の恋愛を歌ったと仮定して考えると、愛のかたまりは現在より未来へ向かって大きく矢印が伸びていますが、so Crazyは現在より未来側へは伸びていません。愛のかたまりが過去を過去として捉えていないのに対して、so Crazyは(出来るかどうかは置いておいて)過去を過去として清算したい心のバックグラウンドが読めるような気がします。f:id:traxvisx9:20201202230929j:image

「愛のかたまり」と「so Crazy」。一見して同じ「恋を失いたくない」人物の歌なんですが、Travis Japanの歌やダンスを通してその時系列の違いや、過去と未来のどちら側により傾倒しているかの違いが際立つ気がして凄く良いなと思いました。いつかこの2曲についてはブログを書きたいと思っていたので今回書けて良かったです。読んで頂きありがとうございました。

 

 

 


本日の総評「Travis Japanにこういう感じの新曲貰えませんか」。